紫の蝶 ~第4章~

f:id:Ubitto:20200105124307j:plain

 あの事件からまる1日…紫姚花《しょうか》は薔薇の一族の母屋に連れてこられていた…

 

「長、町に設置致しました」

 薔薇の一族である一人が提案しと事が完了したことを長に言いに行く。

「では、向かおう」

 長と薔薇一族の者は、紫姚花を町の真ん中にある広場に連れてきた。

「お待ちしておりました、ここでございます」

 先に向かっていた二人目の一族が長に話しかける

 そういうと小さな見せ物小屋が建っていた…紫姚花はその中に押し込められた…

 

「さぁ~村の者見るがいい、これが混ざりモノだ!!」

 長の一言で村人達は集まり、めずらしい動物を見るかのようにマジマジと紫姚花を眺めた…

「めずらしいだろ…当分ここに置いておく、好きなようにするがいい」

 そういうと長と薔薇の一族はその場からいなくなった…

 

 紫姚花はというと村人から罵声を飛ばされたり…石を投げられたり…棒で突かれたりと毎日毎日繰り返される事にうんざりしていた…それでも言葉一つ出さず顔色を一切変えない紫姚花に飽きた者もいれば、逆に苛立ち棒の先に刃物をつけ突いたりしていた…

 

 1年過ぎた辺りから村人は紫姚花に対して何の興味もなくなった頃、紫姚花は母屋の地下にある牢屋に入れられたのである…それでも落ちこぼれ達により毎日暴力や暴行は絶えなかった……

 

 それから何年経ったのだろう…月日は流れ、紫姚花を見張る落ちこぼれが交代する日がやってきた…

 

「まさか俺がここを任されるとは…」

 薔麗《ばり》は牢屋の番人が落ちこぼれの印と知っていて悪態をついていた…

「まぁまぁ、そう言っても始まらないっスよ」

 薔《しょう》はなぜか気楽であった…

「余裕だな…俺達はここから出れないんだぞ!」

「そうだけど、知らないっスか?薔麗さん?」

「何をだよ?」

「オレ達が見張る混ざりモノの事に決まってるっスよ」

「知らないな…そんな者に興味はなかったからな…」

「勿体無いっスよ、それ」

「なぜだ」

 薔麗の顔が曇るが薔の顔は勝ち誇ったようになる。

「それがっスすね、オレが聞いた話だと…絶世の美女って噂っスよ」

「はぁ~」

 興味のない薔麗は気の抜けた声を出した…

「薔薇の一族の拠点4人も美女っスけど…混ざりモノなんて見た事ないっスから、逆にこの役職嬉しいんっスよね~」

「おまえの考え方が羨ましいよ…」

「そうっスか?」

「あぁ」

 

 二人は楽しそうに会話をしながら階段を下りていく…人の声がすると紫姚花は思ったが部屋の隅に頭を寄せ白く濁った目でボーっとしていた…

そんな紫姚花は『交代の時期が来たのだな…こやつらもまた、わらわを……いつまで続くのじゃ…術のせいで気さえ張ることができぬうえに傷の治りも遅い…いささか身体も痛くなってきたのう』まるで壁と会話をするように心の中でつぶやく…

 

「ここだな…」

「へへっ…どんな美女っスかね?」

 階段を下り奥の牢屋に閉じ込められている紫姚花の方を見る…すると毛布に包まり壁にもたれる人影を見つける…その生気のなさに2人は言葉を失う…先に発したのは薔だった。

「様子がおかしくないっスか?」

「そうだな…」

「混ざりモノのオーラって…これが普通なんっスかね?」

「あからさまにおかしいだろ?」

「そうっスね…」

 生きてはいるんだろうと2人は思うが…一向に動かない紫姚花を見て…

「これじゃ…監視する必要もないじゃないっスか…」

 薔はため息を吐くかのように呟く。

 2人は今までここで何があったのか…なぜ監視しなくてはいけないのか…それすらも不安になっていた…

「俺達の鎖を付けなくてはならない…」

 薔麗に言われ薔と一緒に牢屋の中に入っていく…牢屋自体にもあやかし用の術封じの札がしてある。鎖をする必要がない事だが決まりは決まり…少しずつ紫姚花に近寄る…

「すまないが…鎖の付け替えをする、毛布を取るぞ…」

「なっ!!」

 毛布を取った紫姚花の身体を見て言葉を失う…身体に無数のアザがあるからである…

「なんだよこれ!どういう事っスか!!」

「分からないが…誰かに…」

「誰かって…一族しかいないっスよ!」

「そうだな…」

 2人は痛々しい傷に対して議論を交わしていると…

「おぬしら、鎖を付けるのだろう?…さっさと付け替えるのじゃ…」

 小さな声を出した紫姚花を見た後、顔を見合わせる2人…紫姚花は壁を見たまま手だけを2人に差し出す。

 

「ここで何があったか教えてくれないか?」

 今までついていた鎖を外しながら薔麗が紫姚花に話しかける。

「話したら、おぬしらが辛くなるだけじゃ…」

 ずっと壁を見ていた紫姚花は薔麗を見つめる…薔麗と薔はその妖艶さにドキッとし頬を赤らめる…

「辛いのは、アンタの方じゃん」

 紫姚花はその言葉に『フッ』と笑って小さな声で呟く

「そうかも知れんのう…」

 

そういうと紫姚花はしぶしぶこの何十年も前の出来事を話始めた…その長い話の間に薔麗は鎖を付け替え、薔は話が終わると同時に鎖の付け替えを終えた。

 

「そ、そんな…」

薔麗は信じられないのと許せない思いで下を向いた、その姿に紫姚花はまたかと心の中で呟いた。

「混ざりモノの言う事じゃ…信じたくもなかろう…」

「そんな事あるわけねーじゃん!」

 そういうと薔は紫姚花をぎゅっと抱きしめた…紫姚花の身体に激痛が走る…

「ツッ!!何をするのじゃ!離せ!!」

 紫姚花は今までの事もあり、いつも最初は突き放す。

そんな言葉を無視しさらにきつく抱きしめる薔…その瞳に悔し涙を浮かべ

「ごめん…オレ…なんて言うかオレ……ホント…ごめんな……」

 そんな薔の姿を見た薔麗も話始めた…

「俺達はそんな事しない、とりあえず手当てが先だな」

 紫姚花は久々に暖かい気持ちに振れていた…だか疑いだけは捨てられずにいた…

 

どのくらい時間が経ったのだろう…薔麗に治療の術を掛けてもらいすっかりアザや傷が消えた…

「一応礼は言っておく…ありがとう」

 小さな声でありがとうと言った事に薔麗と薔は嬉しく思っていた。

「ところで、名前教えてくれよ」

薔は紫姚花に気軽な感じで話してみる

「そうだな、俺は薔麗・こっちが薔だ」

「よろしくっス」

「……紫姚花だ」

「よろしくな紫姚花」

 

 それが3人にとって始まりの日となった…それから5年の月日が経ち、紫姚花にも生気が見えるくらい元気になっていた。

 紫姚花は心の隅にわだかまりを抱えていた『人間は信じない』と…それを表には絶対に出さなかった…最初の1年返す言葉も一言で終わっていたのが不思議なくらい仲良くなっていた…

 

 

「紫姚花―!おはようっス!」

「薔おはよう、朝からうるさいのう…そう思うであろう薔麗」

「毎日毎日、よくここまで元気がでるな…」

 薔麗と紫姚花はあきれる…だが、内心では薔が紫姚花を励まそうとしている事が2人には分かっていた…

「いーじゃないっスか」

「誰も悪いとは言ってない」

 いつもさらっとツッコミを入れる薔麗そんな毎日に和やかな空気が流れる…

「紫姚花も牢屋から出てこっちでしゃべれればいーのに」

「無理をいうのではない。わらわは捕らわれておる身ぞ」

手招きしながら紫姚花を呼ぶ薔にまたもあきれる紫姚花

「でも、もうその村も知るものがいないからな…」

「知っている者もおるだろう…必ずな…」

薔麗は過去の事を思い出し何十年の前に捉えられ、落ちこぼれがここを任されそれを負い目に思っている人が外に話すなんてことはしないと一人考え込んでいると、人のうわさがどれだけ残されているのか知っている紫姚花が反論する。

「そういえば、一族の長が変わったから長にだけは伝わってるかもっスね」

「そうだな」

「それにしても、一族にもひどいヤツはいるっスね…こんな綺麗な人を傷つけるなんてよ…」

「過ぎた事じゃ」

「紫姚花は本当すごいよ」

「当たり前じゃん、オレが惚れた女っスよ」

「「はぁ~」」

 また始まったと2人は溜め息をついた…

「薔…いいかげん聞き飽きたそのフレーズ」

「惚れない方がおかしいっスよ♪ところで…紫姚花っていくつなんっスか?」

「おなごにそのような事を聞くではないわ……秘密じゃ」

「えぇ~」

「まぁ…400年以上はいきているって事だ」

「そんな生きてるように見えないっスけどね♪綺麗だし別にいーじゃん」

「!! 誰か来るようじゃ…」

いつものように楽しい会話が続き、まさかの薔麗に紫姚花の年齢を暴露されてしまう…

すると紫姚花は何かの気配を感じる。

「えっ!?」

「紅剡《こうせん》様・赫《かく》様・朱漸《しゅぜん》様!!」

 薔と薔麗はひざまつく…紫姚花は冷たい気を放つ…

「話には聞いていたが…やはり強力な気だな」

 紅剡は紫姚花を見て呟く…

「混ざりモノは初めてみましたが…妖艶ですね」

「そこがまた武器なのかも知れませんよ…」

朱漸と赫も続いて会話に続く。

 やはり笑顔でのポーカーフェイスは崩さない2人。

「何でこんなところにいるんっスか?」

 一族の長となったと聞かされていた紅剡がここにいる事が不思議でならなく口を開いてしまった薔…

「さすがは落ちこぼれ…言葉使いがなっていないな!」

 圧倒的な圧力で紅剡は薔を見下す。

 その言葉に薔麗と薔は紅剡を睨む…

「そのような人を見下すのは一族上位者の特技なんであろうな」

 さりげなくフォローする紫姚花に赫と朱漸が笑顔で睨みつける…

「混ざりモノが一族を愚弄するとは何事ですか!」

「このような者を本当に使うのですか紅剡様?」

朱漸と赫は声を荒げる。

「あぁ、確か紫姚花だったか?お前を牢屋から出してやる」

「ホントっスか!?」
薔はキラキラした目で紅剡を見つめる。

「ただし、条件を飲むのならな」

「その条件とはなんですか?」

 条件がある事に薔は落ち込み、薔麗は条件が気になる…紫姚花は黙って聞いていた。

「人間の拠点を1つ増やした、その拠点を守る役目をして欲しい…だだし見張りも鎖もつけたままだ」

「拠点の中なら自由に歩きまわれる、ここよりはマシですよ」

赫は笑顔で紫姚花に嫌味を言う。

「私の術で出来た鎖も付けてもらう、逃げられでもしたら困るからな」

「さぁ、どうしますか?」

 紅剡の安に朱漸が紫姚花に問いかける。

 紫姚花は考えた…逃げる事がここよりも上がる…そう感じた紫姚花は…

「承知した、その条件飲ませてもらうぞ」

「決まりだな、では首に術を掛ける…」

 そういうと紅剡は紫姚花の首に手を当て…

「赤き薔薇よ、そのツルを首に巻きこの者の力を制限せよ」

 術が終わると同時に紫姚花の首には赤い薔薇のついた首輪がされていた…

「では、コレを上から着てもらおう」

 朱漸の手には紫姚花からしたら嫌な物だった、それは一族の証し黒い衣に胸には白い薔薇が刺繍されていた。

「では、拠点まで朱漸が同行します…くれぐれも下手なまねはしないように」

 赫はそういうと朱漸に近づき背中をポンポンと叩いた。

 

 そういうと、朱漸・紫姚花・薔麗・薔は5つ目の拠点に向かった…

 一方紅剡は、緋雨《ひさめ》に対して使役神を放つ…

「これで後は点を結ぶだけだな」

「はい紅剡様、これで行き来が自由になります…」

 

 紅剡と赫は朱漸達の後ろ姿を見ながらこれからの大仕事について話しながら牢屋から出ていった…

 紅剡は心の中で『紫姚花のしゃべり方…以前会ったあのカンに触る混ざりモノと同じだな…混ざりモノは皆あんなしゃべりなのか?』と疑問に抱いていた…