金色の薔薇 ~第5章~

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母屋から出た緋雨《ひさめ》・陽春《ようしゅん》・黄呀《こうが》は自分の拠点に戻るべく道を歩いていた。

「やはり長は姉御に決まりやしたね」
「妥当なとこやないか?」
「そうですね、長になられるのは紅剡《こうせん》様しかいらっしゃいません」
黄呀・陽春・緋雨は紅剡が長になった事を納得しながら話していた。
「姉御の迫力にはかないません」
「そうやな、かなうわけないやろ」
「2人とも……そんな言い方したらいけませんよ」
紅剡に怒られたのを根に持ったのか黄呀が切り出すと陽春も分譲する。
だが心優しい緋雨だけは紅剡の事を暗示2人をたしなめた。
「すんません……」
「あー悪い、そやけど……紅剡様の言っとったの誰やろうな……」
黄呀は一例ると肩を落とした。
陽春は紅剡が行っていたもう一人の拠点を任せる人について緋雨に呟いた。
「そうですね……そんな方がいるのに今まで出てこなかったのが不思議です」
「どこかで見つけやしたかも知れませんねぇ」
「会うのがとても楽しみです」
「そうやな」
「男でしたら、あっしと是非手合わせをして頂きたいもんです」

3人は楽しそうに会話をしながら歩いていた……
山を2つ越した辺りになったくらいだろうか?ポツポツと雨が降り出していた……

「雨やな……」
「お嬢どういたしやすか?」
「もう少しで私達拠点に着きますから……そのまま行きましょうか?」
緋雨は空を眺めながら小雨だと感じそのままどこにもよらずに帰ることに決めた。
「でも……お嬢が濡れてしまいやすぜぇ」
「そうやな……傘も持ってこーへんし」
「大丈夫ですよ、早く行けばすぐに着きますし多少の雨ですから」
「緋雨様がそう言うなら、はよう行きましょか?」
「そうですね」

3人は歩く速度を少しだけ速めた……だが雨は容赦なく激しく振ってくる……
もう少しで拠点に着こうとした時だった……目の前に13~15歳くらいに見える男の子がしゃがみこみ泣いていた……

「あそこにおるんは……あやかしか?」
「人間に化けているのかも知れません……あっしが倒してきやす」
「黄呀、待って下さい」
「お嬢なんですか!」
とても人間には見えないあやかしの男の子がうずくまっているのが可愛そうで、緋雨は2人を振りきかのように前に進む。
「様子がおかしいです……私《わたくし》が参ります」
「ちょい待ち……緋雨様」
「何でしょうか?陽春?」
「1人で行ったら、危ないやろ」
「やはりここは……あっしが!」
陽春も黄呀も緋雨が気になり過ぎて、どうしても自分たちが行くと言い出していた。
「いえ、私が参ります。危なくなったらすぐに助けに来て下さい」
「わかりやした」

黄呀は渋々返事をするが、ずっと緋雨に援護できるよう準備をしていた。
緋雨はというと、1人その男の子の所に歩いていった……

「あの……どうかなさいましたか?」
緋雨はその男の子の肩を触りながら言う……男の子はそれまで緋雨が近づいて来ていたのに気づいていなかった為すごく驚き……
「離せ!!」
男の子は緋雨の手を払う。
黄呀が飛び出そうとした所を陽春がそっと止める。
「このような所にいたら風邪を引きますよ……家に帰ったほうが……」
「ボクには帰る家なんかない!ボクに構うな!!」

なぜだろう……この子とても傷ついている……そう思った緋雨は放っておけなかった……

「帰る家がないのなら……私の家にきませんか?」
「人間なんかの世話にはならない……いいからあっちいけよ!!」
「あなたは……混ざりモノなんですね……何があったのか教えて頂けませんか?」

緋雨は出来る限りゆっくりと相手が落ち着くように話を聞きだす……後ろで見ている陽春や黄呀は内心ハラハラしながら見ていた。

「うるさい!うるさい!!あっちに行け!!人間は敵なんだ!!」
「私はあなたの味方ですよ、そんなに怖がらなくても私は何もしませんから……」

その言葉に混ざりモノは心が揺らいだ……
「名前だけでも教えて頂けませんか?私は緋雨と申します……あなたは?」
「央《よう》……だ……緋雨……本当に信じていいの?」
かなり長い間やり取りをしていた……土砂降りの雨の中で……
緋雨の優しさが通じたのか……央は少しずつ緋雨に心を開こうとしていた。
「もちろんです。私を信じて下さい」
「ボクは……信じる人がいないんだ……」
「それはどういう事でしょうか?話していただけますか?」
「分かった……ボクは混ざりモノだけど……術も使えない落ちこぼれで……」
央はまた涙を流し始める……雨なのか涙なのか分からないくらいに顔がぐしゃぐしゃになっていた。
「村のみんなから……いじめられてるんだ……親から怒られて……嫌になって村から出た」
嫌だった事を淡々と緋雨に話す、緋雨は何も言わずずっと聞いていた……
「村から出たら、あやかしとか人間に追いかけられて……必死で走ったらここにいて……」

そう話し終わった辺りから緋雨は泣きながら央を抱きしめた。
「なにするの!?」
「辛い思いをしてきたのですね……もう大丈夫ですよ」
緋雨に抱きしめられた央にはとても暖かい空気が流れ込むのを感じた。
「本当に?」
「ええ、私と一緒にいましょう。央君さえよろしければ、ですが……」
「でも……ボク何も出来ないし……」
「何も出来なくてもいいんですよ、出来ないからいらないじゃないですから」

その言葉が嬉しくて央は頷いた……すると後ろにいた陽春と黄呀が近寄った事で緋雨は央を抱きしめる事をやめた。

「話はついたようやな、ほな行きましょか?」
「あっしが術が出るようにしてやります」
「そうですね……雨も酷いので早く行きましょう」
「ほら、おまえも行くぞ」
 
全てを聞き終えて黄呀と陽春は緋雨と央の元に向かった。
黄呀は央を立たせた、央はちょっと怖い人だと思い自分の白い犬のような耳を下に垂れさせた。

「央君、この2人は怖いように見えますがとても優しい人ですから安心して下さい」
「う・うん……」
緋雨の言葉に黄呀と陽春は顔を見合わせ後に自己紹介をした。
「名前まだやったな、俺は陽春こっちが黄呀や」
「よろしゅう頼みます」
「よ・よろしく……」

央は緋雨の隣に少し距離を置きながら歩いた……その後ろを守るかのように陽春と黄呀が歩く……

少しして拠点についた3人はすぐにお風呂に入ったという。一方緋雨は……

「点を結びし金色の薔薇よわが名の下に咲き乱れよ」
すると薄い金色の薔薇が点を線で結びその部分だけは結界が張られた印として一つ、また一つと咲き乱れる。

央も外見の可愛さからかみんなに受け入れられ……犬のようなふさふさの白い尻尾を小さい子達に触られたりしていたらしい……

緋雨はどうしても放っておけない央の近くにいつまでもいたという。それをちょっとムッとした顔で陽春と黄呀が見つめていたとは誰も知らない出来事であった……